ブロガーから見た「河童×コッペリア」稽古場日誌 Vol.5

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【前回までのあらすじ】
27歳男性は通し稽古に誘われた!!

 

どうも、両目洞窟人間(27歳男性)です。

前回、音声変換された電話で「通しを見せてやる」と言われた私は恐れながら稽古場にやってきました。
呼ばれた土地は平井。駅前の右手にはフラワーロードという名前の商店街が見えます。
フラワーロードといえばミュージシャン中村一義が、この場所をテーマにアルバムを作った・・・とかそういう雑念が頭を過ぎりつつ、とぼとぼと15分ほど歩いた先に稽古場はありました。

稽古場に入るとぴりりりりっとした緊張感の風が吹き荒れているのではないのか。
飛び交う灰皿と銃弾。私は緊張感の風に吹き飛ばされるのでは・・・と心配しつつ、重たい指紋認証のドアをガチャリと開きました。
すると・・・、なんと稽古場に穏やかな雰囲気が漂っていました。

「あ、両目くん」
と声がした方向を見ると目が血走った男ことキャンディ江口氏が座っていました。
ここに座ってと、キャンディ江口氏の隣に座ります。私の中に緊張感が走ります。
忘れておられるかもしれませんが、キャンディ江口氏に私の弟の生殺与奪は握られているのです。この穏やかな空気もフェイクかもしれないのです。

そう心配している最中も舞台の稽古が続いていきます。
ずっと穏やかです。
大勢の役者達があちらこちらに移動します。
大勢の役者達があちらこちらで演技をします。
その演技を一通り見ながらキャンディ江口氏はオーケストラをまとめる指揮者のように演出をつけていきます。
そして修正された演技を見て、その演技に笑いつつまたさらに修正を重ねていきます。
その光景は緊張感がありつつも、朗らかな雰囲気がどこか漂っていました。精密な時計をフリーハンドで作っているような。そんな気さえしました。
「じゃあ、通しをやろうか」
キャンディ江口氏が時間を見てそう呟きました。

通しが始まりました。
そこからはめくるめく物語の世界に連れて行かれました。
万華鏡のようにくるくる回る世界に私はあわわわわとなりました。 そして、通しが終わりました。

私の使命はこの通しで見たことを書くこと。
しかしネタバレになるので何が起きたかは書くことができません
じゃあ、何を書けばいいか?それを私はずっと悩んでいました。
どうやってネタバレを回避して書けばいいか・・・

「翻案」
そんなときにあの「翻案」と言う言葉が頭を過ぎりました。
河童とコッペリアを「翻案」にしてキャンディ江口氏が描きたかったことはなんだろうか。
河童とコッペリアを掛け合わせて、作り出した物語でキャンディ江口氏が浮かび上がらせたかったものはなんだろうか。
それを考えてみたいと思いました。

キャンディ江口氏があの二作品を翻案して描きたかった物語。
それは「生きていくことの生きづらさ」じゃないでしょうか。
通しを見て強く強く私の心に残ったのは「生きづらさ」を抱えた人々の姿でした。
この世界では誰しもが大なり小なりの生きづらさを抱えています。 そしてこの物語はその生きづらさに向き合おうとしているのだと思いました。

とかくこの世は生きづらい。
世界はくそだし、暗黒な部分に目をやると気が狂いそうになります。
そんな中でもたまに、ごくたまに、その存在を頼ることで生きていけると信じることができるものが現れます。
出会ってなくても、私たちはそれを追い求め生きています。
でも、もし、そんな存在に出会ってしまったら私たちの人生はどうなってしまうのでしょうか。
それは新たな悲劇の始まりじゃないでしょうか。
それでも追い求めるべきなのでしょうか。
そもそも根本の生きづらさからは逃れられないのでしょうか。

そんな生きづらさと必死に向き合った作品だと思いました。
直視すると気が狂いそうな事実に必死に向き合おうとした作品。
逃げられない生きづらさから、必死に向き合って向き合って、多くのユーモアで包んで、なんとか、遠くへ、遠くへ飛ばそうとしている作品だと思いました。

だから一人でも多くの人に見て欲しいです。
生きづらさを抱えている人々に見て欲しいです。
私は話し合いたい。この作品について話し合いたいです。
あのシーンやこのシーンについて。
そしてあのラストについて。
私はあのラストの問いかけについてまだ答えることができません。

そんなことをずっとずっと感じていました。
すると「あっ解放するから」とキャンディ江口氏は私に話しかけてきました。
何のことだろうと思うと、弟から電話がありました。
「助かったよー」と安堵の声。

キャンディ江口氏は弟を解放したのです。
キャンディ江口氏は約束を守る男でした。
ありがとう。
キャンディ江口氏。
ありがとう。

というわけで、短期間でしたが、私、両目洞窟人間の稽古場見学日誌はこれにておしまいです。
この稽古場日誌には多くの嘘が含まれています。
指紋認証の稽古場なんて存在しないし、キャンディ江口氏に弟はさらわれていないし、キャンディ江口氏は血走った目をしてないですし、その他諸々、私の身に起こったことはほとんど嘘です。

しかし、作品に関すること、そして稽古場で見た物は全て本当です。
その本当を嘘で塗り固めるというものこそ物語を作ると言うことかも知れません。
そんな風にしてキャンディ江口氏と大勢のキャスト、スタッフで作り上げられた『交響劇 河童×コッペリア』ぜひともご覧ください。

それでは、私は解放された弟と見に行ってきます。

(おしまい)

文章:両目洞窟人間
雑文系ブロガー。映画、演劇、本、音楽から、独創的な妄想まで。
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